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第百一話

重い足取りで、ナースセンターに向かう。
今度はなんだろう・・・。
もう何がきたって、怖くないけどさ。
看護婦さんが、私の姿を見つけて声をかけてきた。

「上田さんですか?」
「はい。」
「赤ちゃんの搬送用救急車がきたので、赤ちゃん移りますね。」

え・・・もう・・・?
旦那もお母さんと、こっちに向かってるのに。
・・・・・間にあわなかった・・・!
お母さん、一目も見ずに移送されちゃうのか・・・。

「そうですか・・・。わかりました。」

それしかいえなかった。
他に何を言えばいいのかも、わからなかった。
そこに婦長さんらしき人が出てきて言った。

「上田さん、時間ないけど・・・少し赤ちゃん抱っこしてあげましょう。」
「え・・・あ、はい。」

思いもかけない言葉だった。
手を消毒して、赤ちゃんを抱っこする。
昨日とは全然違う。
大きい目をしてる。
肌の色も白い。
きれいな赤ちゃんだ。

「ちびちゃん・・・。」

声をかけると、手足をバタバタさせる。
まだ見えないはずの大きい目が、こっちを見てる。

「ちびチャン・・・。ママだよ・・・。」

声がつまる・・・。

「きれいな赤ちゃんね。」

看護婦さんが言った。

「そうですよね。きれいな赤ちゃんですよね。」

客観的にみてそう思う。
看護婦さんが続ける。

「たまにいるのよ、きれいな赤ちゃん。」

カメラ・・・。
どうして持ってこなかったんだよ〜。
旦那の馬鹿〜。
持ってきてくれてれば、ここで写真撮れたのに。
大きな目の、きれいなきれいな赤ちゃん・・・。
生まれて、まだ24時間たってない、赤ちゃん・・・。
私の赤ちゃん・・・。

それはほんの1〜2分だっただろうか・・・。
看護婦さんに促され、赤ちゃんを渡す。
赤ちゃんは、白衣を着た先生のような救急隊員に
運ばれていった。
あっというまに、私の腕の中から行ってしまった。

私の赤ちゃん・・・。

私は呆然と立ちつくしていた。
ただ・・・・呆然と見送っていた。
どうしていいか、わからなかった。
ただ、そこに立ちつくしていることしか、できなかった。

看護婦さんが、階段を駆け上がってきて、
採血させて下さい、という。
ちびちゃんと共に、私の血も搬送するらしい。

なすがまま、血を抜かれる。
採血が済むと、看護婦さんはバタバタと去っていってしまった。

ナースセンターは何事も無かったように、
機能はじめる。
私はふらふらと休憩室に行き、窓際に寄りかかる。
とてもじゃないが、部屋には戻りたくなかった。

真下に救急車が止まっていた。
見つけてドキッとした。
あの中にちびチャンがいる・・・。
あの中に私の赤ちゃんがいるんだ・・・!

そう思ったのもつかの間、
救急車はサイレンをならして行ってしまった。

・・・・行っちゃった・・・。
・・・・私の赤ちゃん、行っちゃったよ・・・。
・・・・行っちゃったよ、私の赤ちゃん・・・!!!

涙が目にたまってきてるのがわかる。
声を出して泣きたくなってきた・・・。
赤ちゃん・・・!!!
救急車を見送る映像がにじんだ。
そのとき・・・・

「見て見て!変だよおばあちゃん!救急車行っちゃったよ!」
「?!」

振り向くと、5歳くらいの男の子とおばあちゃんがいる。
二人して、二つ向こうの窓から外を眺めている。

「そうだねぇ・・・病院はここなのにねぇ・・・。」
「おかしいよね、なんでサイレンならして行っちゃうんだろ。
 ここにくるならわかるのにね!」

・・・・。
二人の会話に、なんか気が抜けてしまい、
涙が吹っ飛んでしまった。
・・・・まだ泣くのは早い、っていってるんだな、
うん。泣くまい。

しかし、タイミングがいいっていうか、なんていうか・・・。
ギャグだよなぁ・・・まったく。
二人の言葉に苦笑いした。
たまには悲劇のヒロインさせてくれても・・・なんて思ったりして。
         ↑これは今だから思えるんだけどさ。

大きく息を吸って、大きく吐いた。
私の赤ちゃんの多呼吸は、一過性のもので、
すぐ退院だ!と、自分に言い聞かせ、
部屋に戻る私だったのでした。


            続く





★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
今度は自分の出生時の状況っていうんですか?
そういうメールがきたので載せますね。

「私ね、生まれて何日かたって、食道がずれていて
 ミルクをうけつけられなくて、親が大変な思いを
 したの。昭和40年だと今よりずっと医学が進んで
 いなかったから、順天堂でも「助かりません」って
 言われたの。でもそんな私が、今こうしていられ
 るのは、柏の町医者の先生が一生懸命やってくれ
 たからなんだ。栄養がいきとどかないから、頭の
 骨がいつまでたっても空気の抜けたボール状態。
 町医者だから入院もできないし、親はたいへんだった
 と思う。父親は「あきらめろ」って言っていたら
 しい。でもやっぱり母親の愛情ってすごいよね。
 母親も大病した後の子供で、自分だって健康じゃ
 ないのに。体験記を読んで、母親のその時の気持
 ちとダブリます。今日たまたまテレビを見ていたら
 林真理子が出ていて、母親が大正生まれだそうで 
 子供のころ悪いことをしたら「おまえも殺してお
 母さんも「死ぬ」って言われながら育ったと言って
 いました。その自分が母親になって、どう育てて
 いけばいいか考えてしまうということも。わたし
 には子供がいませんから、本当の大変さなどわか
 りません。でも私たちが子供のころより、加速度を
 つけて何かが起こっているのは確かですよね。」

だそうです。なるほど、そうかもしれません。で、もう一通。

「こんにちわ(^^
 百一話目を読んで思ったんだけど、みつこさんて
 「べっぴん」なんですね。
 だって、きれいな赤ちゃん=きれいな両親のDNAな、
 わけでしょう。
 それでは、また(^0^)/~~~」

そうともいえないけどね。だって、瑞穂はお義母さん
そっくりだし・・・。私に似てるのは肩幅と手足の形位
ですよ。ははは(ちょっと哀しい・・・)
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

第百二話

しばらくして、そう、30分もしないうちに、
旦那とお母さんが到着した。
赤ちゃんは・・・?と聞かれ、いきさつを話す。
旦那と一緒に、先生からもう一度、説明を受ける。
医療センターがこの病院から30分くらいでいけると聞くと、
とりあえず行ってみる、と旦那は道順を聞きはじめた。
お母さんも一緒に行く、と二人は風のように去っていった。

残された私は、またボ−っとしていた。
後腹が痛い。
こんなに痛いもんなのか・・・。
冷や汗が出てくる。
でもちびチャンも大変なんだから・・・と我慢する。
後日、痛み止めをもらえたのに・・・と聞く。
あらら・・・。
食後2時間も過ぎると、痛みは止まる。
どうやら、食後に飲む子宮収縮を促す薬が
効きすぎているようだ。
痛みの中で、頭は悪い方に考えを持っていく・・・。
これじゃいけない、と思い日記を書き出した。
とにかく、昨日の出来事を書かなきゃ、とペンをとった。
陣痛から出産まで、思い出しながら書いていると気がまぎれる。
日記を書き終えてしまうと今度は台本を書き出した。
何かしていないと、おかしくなりそうだった。
同室の人たちが、6時の授乳の準備でバタバタしはじめた。
それでやっと、6時だと気づくくらい、集中していた。

旦那とお母さんが戻ってきた。
培養するから、検査の結果が出るまで2〜3日はかかるよ、と言う。

培養・・・?
何を・・・・?。

それで、何の異常もなければ退院できるとのこと。

お母さんは結局赤ちゃんを見られなかったらしい。
ということは「みられない場所」にいるということになる。
ほんの30分くらいの差だったんだけどね・・・と私が言う。
家に電話をしたら、義妹が仕事帰りに寄りたいといってるとか。
旦那は、お母さんを駅に送りながら迎えにいってくる、
といいまた去っていった。

どんな気持ちだろう・・・。
私のように、昨日から不安があったわけでなく、
いきなり「「それ」を突きつけられた旦那は・・・。

夕食後、義妹がお花とケーキを持ってやってきてくれた。
車の中で聞いたらしく「見たかったなぁ・・・。」
と言っただけだった。
食後に飲んだ薬のせいか、またお腹が痛い。
初産は痛くないとかって聞いてたのに・・・。
この後腹(あとばら)いつまで続くんだろう・・・。
消灯前、最後の授乳が終わり、同室の人が言う。

「ごめんねぇ、いびき大魔王は今夜で終わりだから許してね。」

どうやら昨日の「いびき」の本人らしい。
明日退院ということか。もんもんとするのだが、
二晩続けてまともに寝ていなかったせいか、
いびき大魔王にも起こされず、4時30分まで熟睡した。

4月29日(土)曇りのち雨。
明け方の空はきれい・・・。窓際のベッドの役得だ。

「チビちゃん・・・。おはよう・・・。」

私は外を眺めながら、そうつぶやいた。 


                続く






第百三話

4月29日(土)
今日、旦那は友人の結婚式だ。
こないんだろうなぁ・・・。

朝の検診で、オッパイの検診があった。
でるようになったら言って下さい、という。
冷凍して医療センターに運んだらいい、というのである。
へぇ・・・。
冷凍かぁ・・・。
初乳は絶対あげたい。
免疫やらなにやら、いいものがいっぱいらしいから。

午前中に、ミルクの講習会みたいなのがあった。
その後また「暇」になる。

こうなってくると、電話魔になる。
実家にかけると、誰もでない。

そう思っていたら、お母さんと妹がやってきた。
お父さんはいない。
そうこうしてるうちにまたまた来客。
会社の同僚がお母さん連れだって、
やってきてくれたのだった。
が、しかし・・・。
赤ちゃんがいなくなってしまった話を聞いて、がっかりしていた。
私も会社に電話すればよかったんだけど・・・。
そういう「気持ちの余裕」が昨日は全くなかった。

「ごめんね・・・。無駄足になっちゃって。」
「いいよ〜。」

彼女からケーキを頂いた。
昨日の救急車の泣けなかったことを話すと
笑われた(どーせ!!)
お母さん達は5時に帰っていった。
今帰ったよ、と電話をすると、お父さんがでた。
顔みられないから行かないよ、気落ちするなよ、
と言われた。
お母さんと妹も帰り、またまた「暇」になった私は、
日記を書き出した。
赤ちゃんをとり上げてくれた先生が、
6時の授乳時間にやってきた。
同室の人はみんな授乳室だ。

「上田さん、赤ちゃん医療センターだってね。」
「はい。」
「そうか・・・。肺に異常があったりするのは、
 生まれてみないとわからないからなぁ・・・。」

・・・肺?

「出産自体はそんなに悪くなかったですよ。」
「そうですか。」
「医療センターからも定期的に、連絡がきますから、
 何かあったら教えますね。」
「はい、お願いします。」

先生はそういって去っていった。
肺?
確かにそういった。
肺に異常?
そんなこと聞いてないぞ。
不安が広がる。

授乳が終わって、みんなが帰ってきた。
誰かが、雨が降り出した、というので、窓の外を見る。
ふと駐車場をみると、うちの車が見える。
あれ・・・?

そう思ってたら、旦那がきた。
披露宴途中で抜けて、ちびの病院に行ってきた、とのこと。

・・・・そんなに悪いの・・・?

不安になる。
大丈夫だよ、という旦那。
先生が・・・・と言いかけてやめた。

外は雨・・・。
巷はGWのはじまりだというのに、私たちの心のように
雨模様の天気だった。

「そうそう、目を開けてたよ。」
「そう・・・。」

会話につまる。
二人で話していたら、看護婦さんが声をかけてきた。
ナースセンターにいくと、出生届と、退院セットをくれた。
本来なら、退院セットは退院する日にくれるのだが、
赤ちゃんのいない私は、いつもらっても同じだかららしい。
中にピンクの紙が入っていた。
その紙は、私の名前と赤ちゃんの生まれた日時が書いてある。
新生児の側に置いてある紙だ。
医療センター退院後、この紙もってくれば、
下のロビーに飾ってある写真を撮ってくれるという。
撮ってもらっていない私のチビちゃんは、
あそこに飾られることはないということだ。
ロビーでいつかここに飾られるのかなぁ・・・
なんて思ってた妊婦時代を思い出し、むなしくなる。
果たして、この紙をもって写真を撮ってもらいに、
ここにこられるんだろうか・・・。

ふと、旦那が出生届けを見ながらいった。

「瑞穂にしよう。」
「・・・・うん?」
「名前、いいだろ?」
「・・・。」

瑞穂。
−上田瑞穂−

「少し考える。」
「うん、早めにね。」

旦那はそういって帰っていった。
名前・・・。一生使うもの。どうしよう・・・。
簡単に決めたくない。ましてこんな状況じゃ・・・。
私はまだ「瑞穂」の画数も何も調べていない。
本を持ってきていないことを、悔やむ私でした。


                  続く

                          







*************************
感想メールです。

「こんにちは。出産体験記、いつもありがとうございます。
 私がお腹にいた頃、安定期ですけど
 母はバスから転げ落ちたことがあるそうです。
 ちょっとやばいかな、と思ったけど気にしなかったと。
 だからこんな子になっちゃったんでしょうね。
 11月出産予定の友人は、限界に挑戦とか言って、
 俯せに寝ちゃうことがあるそうですが、大丈夫なのでしょうか?
 瑞穂ちゃんと言えば。
 大学時代の友人に、瑞穂ちゃんという子がいました。
 お父さんが学生時代、名古屋市瑞穂区で
 青春を過ごしたから、瑞穂。
 「中区とか熱田区じゃなくて良かったよ」って。
 東京都じゃなくて良かったですよね。
 東京って、女の子の名前にできるような区ってないですよね。
 名前って一生ものだから難しいですよね。2週間以内だし。
 悩んじゃいますね。友人も、長男の名前を「漢字3文字が良い」って、
 みんなにさんざん候補を出させておいて、あっさり「裕一」に
 しちゃうし。林太郎とか淳之介とかじゃ駄目ですかねえ。
 ちなみに裕一くんのお姉さんの名前は咲桜里(さおり)ちゃんです。
 私は「久美子」になるはずだったのですが、先に生まれた親戚が
 久美子と名付けられてしまったので、同い年の親戚で同姓同名も、
 ということで、急遽変更になったのだそうです。
 どうやら父の初恋の人の名らしいですよ。くす。」

お父さんの初恋の人の名前をつけてもらったんですか・・・。
女性には女の子。男性には男の子の名前をつけさせるといいらしいです。
異性のをつけさせると、どうもこの手の理由で名前がつくパターンが
多いからだって(笑)
****************************

第百四話

出生届は、生まれてから2週間以内に、役所に届ける
というのが法律だ。
だからそんなに急ぐ必要があるのかなぁ・・・
と、のんきに思っていた。
早く名前を決めて、「出生届」を出さなければいけない
「理由」なんて、私には知る由もなかった。

4月30日(日)雨。
今日は風が強い。
ちびチャンは元気かなぁ・・・。
検診で、便がでたか聞かれる。
なんとか今日でたので、その旨を伝える。
出ていないと、座薬らしい。

しかし、産後のトイレは怖かった。
なんとなく、腫れてるような気がするし、
何より切ったところが怖かった。
洗浄綿で拭くときは、ドキドキものだった。
剃毛されているので、つるつるなのが、異様におかしかったけど。
そうそう。「ウォッシュレット機能」が、これほど
ありがたいと思った事もなかった。
実家のトイレには、この機能はない。
産後、実家に帰るというなかで、この機能がない事だけは悔やまれた。

明日は退院診察。
お風呂に入りたい・・・。
少しイライラしてるらしく、ツメをかんでしまう。
下の売店にいって爪切りを購入した。
ついでに漫画雑誌も買った。お母さんに、産後は本なんか
読んじゃ駄目よ!目が疲れるんだから!と、くぎを
さされていたのだが、こう「暇」じゃ仕方がない。
大体新聞も毎日部屋にくるし、あの字の方がよっぽど小さくて、
目が疲れると思う。
ま、新聞はオウム真理教のことばっかりでつまらないのだけど。
誕生日別の本があったので、ちびの4月27日の本も買ってしまう。
ちびチャン、4月生まれかぁ・・・。
誕生石はダイヤモンド・・・。
ぜ・贅沢・・・。

呼吸落ち着いたかなぁ・・・。

お昼、12時にお父さん、お母さん、
一番下の義妹、旦那がやってきた。
あれ?お父さん、いかないよ、って昨日言ってたのに・・・。

みんなで、下の喫茶店で昼食を食べ、帰っていきました。

後日、聞いた話なんだけど・・・。
私の両親は、ちびの入院に際しての「保証人」になるために
こっちの家まできて、書類にサインをしたんだそうだ。
旦那の両親は無職のため、保証人にはなれないのだそうだ。
その保証人というのは、ちびチャンが使っていた人工呼吸器の
「月に一千万」かかるという医療費のものだそうで
その時の私には、全く知らされていない事でありました。
旦那はみんなを送りながら、またちびチャンの所にいく、
といっていました。
そして4時頃、再びやってきました。

「結婚式の引き出物が、カタログなんだけど、何にする?」
「任せるよ。」
「わかった、適当に選んどく。」

お義母さんが、ちびチャンの名前を見て貰いに、
とある場所に行ったそうだ。
ありがとう、お義母さん。
旦那は瑞穂がいい、と言い張っている。
一生使う名前。
簡単に決めないで、と私。
考えられるだけ考えて、それで決めたい。

「夜、電話するよ。」
「わかった。」

旦那はひどく疲れているようだった。
ちびちゃんどうだった?
と聞けば、大丈夫だよ、としか言わない。
肺・・・って聞いたけど・・・
と言いたかったけどいえない私がいた。


                  続く



                          


第百五話

5月1日(月)雨。
GWなのに雨。
天候は、私の気持ちとシンクロ状態・・・。
この病院の反対側は田圃。その向こうに高速道路。
車の走る音と、カエルの鳴き声と・・・変な感じです。
この3日間、はかどったのは台本と日記。
まぁこまめに書いていました。
何かしてると、気が紛れたから良かったんだけどさ。

ちびの名前は瑞穂になりそうです。
「上田有加」という名前をお義母さんは貰ってきてくれた
ようだったけど、「有加」はきつい感じがして・・・。
瑞穂だと「流される」とかあまり良くないといわれて
きていたようだけど、旦那はもう決めたようだった。

今日は退院診察があります。
本当だったら、明日、ちびちゃんと、
一緒に退院するはずだったのに。

そして、今日初産の私も、やっとシャワーを浴びられます。
診察の前に浴びたいな、と思っていたら、いいですよ、
というので、みんなが授乳中にゆっくり浴びました。
生んだ日を0として4日目にシャワーOKなんです。
ちなみに経産婦の人は、3日目でOK。退院は5日目となります。

退院診察も無事クリア。
27日に生んだ6人が、顔をあわせました。
大騒ぎして産んだ人が、うるさくしてごめんなさいと
謝っていました(笑)。
先生から、退院診察終了後、それぞれの赤ちゃんが
検査のため、採血をしていて一応血液型がわかりますが、
知りたいですか?と聞いていました。
私には関係のない話・・・。
ちなみに、赤ちゃんの血液型って安定しないんですって。
2歳位にしっかり検査したほうが、確かだとか
いってました。
変わることってあるのかしら・・・。

最後に先生は私にこういいました。

「上田さん、よかったら今日退院してもいいですよ。」
「え・・・。」
「明日退院の理由は、赤ちゃんの退院診察が明日だからなんです。」

赤ちゃんのいない私は、今日の検査OKだったから、
ということらしい。
家族に聞いてみますと返事をする。
迎えにきてもらえなければ意味がない。

いたくなかった。
羽をもがれ、かごの鳥のように、
閉じこめられた気分だったから。

もちろん羽とはちびちゃんのこと。

家に電話をすると、お義母さんも、今日は
大安だからいいんじゃない?といってくれて、
旦那も4時半頃迎えにくるというので、退院が決定しました。

病院を5時に出る。
入院費は思った以上に安くすみました。
一日早く退院することと、赤ちゃんがいないこと。
初日が簡易ベッドだったこと、等々理由はあるけど。
駐車場にいって、スリッパを忘れた事に気づく。
雨の中、戻る気にはなれなかった。
可愛いくて結構気に入ってたのに・・・。

そして駐車場の車のなかで、発進前に旦那が言った。

「赤ちゃん・・・瑞穂見に行く?」
「・・・行く!!! 連れていってくれるの?」
「じゃ、その前に説明しとくよ。」

旦那は瑞穂の病状を説明しはじめた。

聞いてて頭が真っ白になった。
不安はあった。
大丈夫とかって、旦那は言ってたけど、
不安はずっとあった。
その不安がまた現実に、更に最悪な状況で私の中に入ってきた。

ちびチャンは、肺が完全に開かなかったという。
理由は感染症。
羊水が濁っていて、それが何らかの理由で
肺にはいり感染症を引き起こし・・・
完全に開かなかったという。
だから息を何度もしていたんだ。
肺の開きが不十分じゃ、酸素が足りない。
人工呼吸器を使って、足りない酸素を補っているとか。
酸素が足りないと、脳がやられてしまうから。
あと1週間から10日で肺が開かないと、
多分心臓が先にまいってしまうだろう、という。
まいってしまう・・・。
止まってしまうということ。
すなわち、死んでしまうということ・・・。

肺が開くのが先か、心臓が駄目になるのが先か・・・。
いわゆる「危篤状態」だという。

何も浮かばない。
なんていっていいかわからない。

旦那は今言って、会いに行かなきゃ、
もう会えなくなるかもしれないから・・・という。
会えなくなる・・・。
来たばっかりで、還っていっちゃうってこと・・・。



一路、医療センターへ。
車の中での会話は、少なかった。
程なく車は病院に到着する。
埼玉県立小児医療センター。
大きい病院。
駐車場も広くて、まわりは田圃。
雨の中、緑がきれい。

3階・未熟児新生児科。
面会用のバッチを手に、入室。
面会日誌に時間と名前を明記する。
基本的に「両親」しか入室できないという決まりだ。
だからお母さんは見られなかったんだ。
手を消毒して、白衣と白帽をかぶって、
更にドアを2枚通り集中治療室へ。
そこで私が見たものは、想像を遙かに超えた、
痛々しいちびチャンの姿だった。


                       続く






**********************
感想メールです。

「こんにちは。
 感想メールにあった、名古屋市瑞穂区といえば
 父の実家のある場所で、父の青春時代の場所
 でもあります。世間って狭いね。ちなみに
 岳見町だったかな。
 瑞穂っていい名前だね。
 瑞っていう漢字が特に好きです。
 私の名前は画数+左右対称の漢字が
 優先されてたので、こんな名前になったみたいです。
 うーん、、、。弟は生死が微妙なとこだったので
 名前は専門の先生に決めてもらったらしい。
 そのせいか、元気すぎてうるさいくらいです。
 名前って影響力大なのかしら??」

影響力はあると思いますよ、うん。で、感想とは違うけど
友達からなんですが・・・載せます。

「今日は広報で一緒のグループで一年生のママから
 奇妙な話を聞きました。お子さんは男の子。
 学校の帰り道、もう一人の友達とジャンケンで
 負けたらランドセルを持つって言う遊びをしな
 がら帰って来たそうです。相手の男の子は太っ
 ていて歩くのが遅くてのろのろ後から付いて歩
 いていたら、重いし疲れたからやーめた。と言
 って自分の家に帰っちゃったみたい。持っても
 らっている筈の友達が居ないのでその子は家に
 帰ってママに知らせると、じゃあ今から探しに
 行こうって言って相手の子に聞きに言ったり、
 通学路を探したんだけどランドセルは見つから
 ない。今日で一週間になるそうです。誰が持っ
 て行っちゃったんでしょう。
 話によると、ランドセルってフリーマーケットで
 いい値段で売れるらしい・・・と聞いたそうで、
 ひょっとしたら誰かが持って行ったのかも知れ
 ないって言うんです。一年生のランドセルには
 警察から貰った交通安全の黄色いカバーがかけて
 あるし、入学してまだ1ヶ月半ぐらいだから、
 新品同様。そのママは、そんな遊びをしながら
 帰って来る自分の子も悪いけど、まさかランド
 セルがなくなるなんて、夢にも思わなかった・・・
 と言ってました。その通学路は駅に向かう道
 なので車の往来も多いし、人通りが多いので
 誰かしら見ていたんではないかと思うんだけど、
 もし盗まれていたとしたら犯人は大人でしょう
 からどっかの子の親御さんだとしか、思われ
 ないでしょうね。ランドセルの値段もピンきり
 ですが、良い物は5万円ぐらいするし、家
 あたりで買ったのも、3万しない位の物だし。
 それにランドセルは結構おじいちゃんやおばあ
 ちゃんに買ってもらう人が多いのでちょっと
 ショックだよね。」

そしてもう一通。

「処で15日のことなんだけど、緊急連絡が来て、
 刃物をもった男がうろついているのが発見され
 たので、下校時迎えにこれる方は、学校まで来
 て下さいって言う、とんでもないものだった。
 一体何なんだと思ってみんなの話を聞いてると、
 サラリーマン風の男が包丁もって幼稚園の裏から
 でてきたらしい。そのあとは、人を殺しただの、
 銀行強盗だのコンビニ強盗だの、薬でいかれてる
 だの、もう尾ひれはヒレが付いてほとんど口裂け
 女状態になっていました。何がなんだか判らな
 かったけど、とにかく恐くて、夜もものすごく
 おびえて過ごしてしまいました。次の日の朝刊の
 神奈川版に、包丁もった50才くらいの男が包丁
 もって、年配女性宅に押し入り、殴ってお金を
 要求した、と載っていました。そのあと別の場所
 でも見受けられたらしく、もうこの辺にはいない
 ようなんですがまったくやんなっちゃうよね〜。」

双方とも現実の話だから怖いなぁ・・・。
いやな世の中になったものです。
**************************

第百六話

みなさんの持ってる、保育器のイメージってどんな風?
私のイメージはベッドがあって、その上に透明の四角い箱。
そんなイメージだった。
もちろん、産院のやつはそうだったし、
TVとかでもそんなのしか見たことない。
なのにうちのちびが入っていた?のは、
フタもなにもしていない「保育器」だった。
ましてや、「おしめ」もしていないのだ。
果たして「保育器」というものなのか・・・
とも思ったが後日、病院からもらった用紙には
「保育器使用」と明記されていたので
あれも間違いなく保育器らしい。

ベッドの廻りにはやたらと機械があって、
その上には赤ランプがクルクル廻っている。
ついたり消えたり、赤ランプは点灯している。

手足はもちろん、口には人工呼吸器。
栄養はおへそに管を入れて、そこからとっているという。
胎児の時と同じ栄養補給状況である。

動くと心臓に負担がかかるため、
薬で眠らされているんだよ、と旦那がいう。
むくんでいて顔が別人のよう。
あんなにきれいな赤ちゃんだったのに。

きれいだった赤ちゃんの写真はない。
私の心にしか残っていない。
ここにいるのは、管につながれ、むくみまくった赤ちゃん。
ちびのはじめて撮った写真は、この痛々しい姿のものだった。

赤ちゃんの前で、立ちつくしてしまった。
ちびチャンの姿が、涙でぼやけてしまう。
ちびチャンに手を伸ばす。
頭をさわって、手をさわって、お腹をさわって・・・
涙が頬をつたうのがわかった。
なんでこんなになっちゃったんだろう・・・。
どうしてこんなになっちゃったんだろう・・・。
私が、死にたがってたから?
私のせい?・・・
ちびチャン・・・。

右上の赤ランプの点灯が気になる・・・。
なんなんだろう。
ついたり消えたり・・・今はずっとついてる。
不安がよぎる。
看護婦さんが通ったので、聞いてみる。

「危険な状態だとつくんですよ。」
「あの・・・ついてるんですけど。」
「そうですね。」

看護婦さんはそういって足早に去っていった。
そうですね・・・って
・・・おい!!!!
旦那はずっとこうだよ、という。
・・・すっと「危険な状態」ということ・・・。
呼吸数・心拍数・血圧等々・・・。
いろいろの数値が表示されている。
何が危険で赤ランプが廻っているのか、さっぱりわからない。
ふりかえって、ちびチャンをみる。
薬漬けで、ぐったりして、身体を固定されて・・・。
昆虫採集の虫みたい・・・。
なんて事だろう・・・。
ちびの担当の先生が来た。
私が来てることを知ると寄ってきて話をした。
女医さんであります。
エリートって感じの、美人の先生です。
大変だけど頑張りましょう、と言ってくれた。
お願いします、としか言えなかった。
1時間の面会時間はあっという間に終わった。

また来るからね。頑張ろうね。
今度は初乳をもって来るからね。
それまで頑張るんだよ。
名残惜しいが、いつまでもいられない。

母乳出さなきゃ・・・。
心に誓いながら、車は一路実家に向かった。


                続く




*********************
感想メールが来たので載せますね。
ありがとうございます。

「出産体験記、大変なことになってきましたね。
 チビちゃんの容態が心配になってきました。
 私のいとこの奥さんが去年、8ヶ月で死産して
 しまったんだけど、原因は旦那さんが仕事でい
 そがしくて夜帰り遅かったから、妊娠中の
 奥さんが待ってる間たくさんお酒のんでたんだって。
 アルコールとりすぎると、赤ちゃんの心臓が
 成長しないんだって。今の妊婦さんに多いらしい
 よ。だいたい心臓の弱い赤ちゃんはお母さんの
 アルコールが原因だって。でも、上田さんのチビ
 ちゃんの肺は、羊水が濁ってたことが原因みたい
 だけど、なぜ濁ってしまうんだろう。こわいなあ。
 母になるって大変なんだね。出産前も、出産後も。」

そうそう、アルコールは駄目。
寝る前に少量のワインとかなら、ぐっすり眠れるから
いいとかってきいたことあるけど、眠れない人に
限るって事みたいだし、とにかくやめるにこしたことはないよね。
で、やめなきゃいけない、もう一つの物のことで一通。

「私の幼なじみは重度の知恵遅れです。原因は、
 やっぱり妊娠中のお母さんの生活。
 すごいヘビースモーカーで、妊娠中ずっとタバコ
 吸ってたの。しかもそのお母さん、産婦人科の
 看護婦だったんだよ。うちの母も産婦人科勤めてたので、
 何度も彼女に注意したんだけど全然きかなかったんだって。
 で、生まれてきたのは「へその緒」を首に3重にまいた
 赤ちゃん。首をへその緒で絞められた状態で出てきたから、
 脳に酸素が行っていなくて「知恵遅れ」になっちゃったの。
 先生の話だと、お母さんがタバコ吸ったせいでお腹の
 赤ちゃんが苦しくてお腹の中でぐるぐる回っちゃったん
 だって。それでへその緒が巻き付いちゃったんだって。
 お母さんのちょっとした不注意がこういう結果に
 なっちゃう・・・怖いですよね・・・」

たったの10ヶ月我慢できずに、残りの人生を
子供に捧げることになったわけですね。
ま、自分が悪いんだから仕方ないですね。
子供にとっては「不憫」この上ないけど、母親には
同情の余地なしって感じです。ちょっとした不注意じゃないよ、
タバコは。子供が欲しいならやめるべき。
最近の流産早産の7割の人が喫煙者だとか。
子供持つ気なら、その期間だけでもやめなって。
ほんとに百害あって一利なしなんだから、
吸わない事が一番なんだけどさ。

そうなんだよね。脳に酸素がいかないと、
酸欠状態でそうなるんだよね。たったの1〜2分で
脳は死んじゃうんだって。
肺が完全に開いてないから、酸素が足りなくて、
そういう不幸な状態にならないように、ちびは
人工呼吸器つけたんです。

「こんにちは。赤ちゃんの痛々しい写真、拝見しました。
 きれいな赤ちゃんがあのような姿ではびっくりしますね。
 うー。本当に本当に、きれいなときの写真を撮って
 おきたかったですよね。
 お父さんとお母さんとお医者さんと、赤ちゃんと。
 みんなで頑張ったんですねえ。大きくなったとき、
 めちゃめちゃ感動しちゃいますね。1番頑張ったのは
 赤ちゃん自身でしょうが、みんなが自分のために頑張って
 くれたのは、すごく嬉しいと思います。自分の命に責任感じますね。
 私は胸板の厚い丈夫な赤ちゃんとして生まれたんです。
 帝王切開で早めに出したので、保育器ぎりぎりの小さい子
 でしたが。でも、苦労させられたそうですよ。
 母は母乳がでなかったので、哺乳瓶でミルクを飲ませて
 いたのですが、飲み終わるのに2時間かかったそうです。
 飲んでいるのかいないのか、じっとくわえて、2時間。
 フルコース食っているわけじゃないんだぞ、と。
 その間待ち続ける母。ちょっとかわいそうです。
 妹は反対に一気飲み。飲み終わると哺乳瓶を
 投げちゃうんだそうです。どこに投げるかわからないので、
 必死で構えて待っていたんですって。
 姉妹でも違うんですねえ。それではまた。」

フルコース食ってるわけじゃないんだぞ、にうけてしまいました。
******************************

第百七話

家に近づくにつれて、なんだが胸が痛くて痛くて仕方がない。
なんだか、胸が石みたいに固くなってきた。
あんまり痛いので、帰宅するなり、
お母さんに胸が痛いと言った。
お母さんはどれ?と見て大きな声でいう。

「あんた、これ張ってるんじゃないの?」
「え・・・?」
「いやだ、馬鹿ね、なんでこんなになるまでほっとくのよ。」

って、言われても、病院でるまで、うんともすんとも。
「張り」の「は」の字だってなかったんだもの。
病院から自宅までの車中、わずか40分弱の出来事であります。

「赤ちゃん見ると違うのかねぇ・・・。」

カチンカチンの胸。
もう胸という代物ではない。
人間の身体は、ここまで固くなるものなのね、
という状態。
更に、大きくなってる。
始末におえない。

とにかく、もみほぐさなければいけないらしい。
暖めたタオルをお母さんは持ってきて、ぐいぐいもみほぐす。

「イタ−−−−−−−−−−イ!!!!!」
「仕方ないだろ!赤ちゃんだって痛いんだ。これぐらい我慢しな!」

容赦なくもまれる。
その激痛や否や、耐え難いものがある。

二人目の出産で知ったんだけど・・・・。
暖かいタオルで暖めると、更に張って来るんだって。
産婦人科の婦長さんが言ってたんだから、まず本当でしょう。
しかし、いまだにもみほぐすときは、暖かいタオル
というのが世間の常識らしく、もちろんこの時はそれが「常識」
なもんだから暖めて、グイグイほぐされ、
張っては、暖められほぐされ、の繰り返し。
ヒ−−−−−−−−−−。
いつまで続くのこの地獄。
エンドレスかい?

夕食後、更に痛くなる。
食事をすると、張りが増すのよ。
栄養が胸に集中って感じです。
もう痛くて涙がでまくり。
さんざん絞って、寝る。

明朝、胸の痛みで目が覚める。
更にまた「カチンカチン」の状態になっている、私の胸でありました。


                    続く




                          


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突然ですが、宣伝します。知人が本を出版しました。
題名は下記の通りです。

「口からうんちが出るように手術してください」
                 著者名:小島直子
                 出版社:コモンズ

彼女は重度の障害者です。車椅子に乗っています。
小学校時代から知ってるので、だからどうとかってのは
ないんだけど、その頃の事も含めて、いろいろ書いてあ
ります。店頭においてあります。買いに行ったら、新刊
コーナーに山のようにありました。女性ならではで、お
母さんのこととか、いろいろ載ってます。
出産の際、酸欠で脳性小児マヒになってしまった彼女。
今は1級建築士目指して頑張っています。
宜しかったら読んでみてください。宣伝でした。
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第百八話

5月3日水曜日・曇り一時雨。
実家の父はテニスにいけずにくさっている。
もちろん「雨」のせい。
洗濯機が壊れた、とかで母と島忠に買いに行った。
当然、私は「ちちしぼり」・・・。

旦那は当然、瑞穂の病院。私はひたすら「搾乳」・・・。

気分がくさっていたところに、午後、小学校時代からの
くされ友人が、お花を持って来てくれた。
おしゃべりをして、気が紛れた。

「大体さ、誰の子供だと思ってるの?みっちゃんの
 子供なんだよ?そう簡単にどうにかなるわけないでしょ。」

ひどい励まし方である。私は一応「普通」だぞ。
それに、そのころの私は、瑞穂がどうかなっちゃうかも
ということは、考えないことにしていた。どうかなる理由は、
心臓がもたないってことだった。心臓って、上手につかえば
100年だってもつんだから、1週間や、2週間酷使したところで、
駄目になるなんて、そんなことはないだろう。
だからきっと平気!大丈夫!と。
なんとも御気楽人生の私の考え方。

左の母乳がよく出るようになってきた。
しかし・・・血がにじんでるのはいただけない・・・。
みんなが帰ってきた。
そんな中・・・・・
叔父さんが「こいのぼり」を組み立てて、家に持ってきた。

「赤ちゃん誕生おめでとう!!!」

・・・・・。
一同シ−−−−−−−ン。
だって生まれたの「女の子」だし・・・。
一応、まだ「危ない」状態だし・・・・・。
ましてや自転車に乗って、こいのぼりを泳がせながら来たのが
一目瞭然なんで・・・・。
みんな黙ってしまったのだ。

「叔父さん・・・。赤ちゃん女の子だよ・・・。」
「え?女の子?え?」

どこをどう聞き間違えたんだが、叔父さんは「男の子」だと
思っていたのだった。
かといって「こいのぼり」を返すわけにもいかない。
だって、組み立てちゃってるから「返品」もきかないしさ・・・。

「次は男の子産むから、もらっとくよ。大丈夫だよ、
 ありがとう叔父さん。」
「・・・・。」
「ほんと大丈夫だよ、今は「子供の日」なんだから。
 兜じゃ笑えないけどさ。」

次は男の子、なんて勝手に約束して、受け取ってしまった
「こいのぼり」。私以外の人に、ケチョンケチョンに
けなされた叔父さんでした。
叔父さんの、こんな「ドジ」は初めてなので、印象深い出来事です。
ちなみにこの「こいのぼり」。
家にもって帰った後、お義母さんにも、なんだいそれ?
とあきれられました(笑)

なにはともあれ、搾乳で一日が終わる実家での日々です。


                  続く


追伸:この「こいのぼり」今年もしっかり、5月の空を泳ぎました。

                          






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
昨日は宣伝してしまいました。
本の中で「今、九九やってるよ」と言った友人とは
私のことです読んだ方にしかわかりませんね(笑)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第百九話

5月4日木曜日。
父は腰が痛い、といい、整体に出掛けた。
実は夕べ、古い洗濯機を家の前にある電気屋さんの
使えなくなった家電製品置き場に、こっそり置きに
行ったのが原因。
引き取り料1400円けちって、整体に4000円かけてりゃ
世話ないよ、と母にののしられる父だった(笑)

台本は順調に進んでいる。
TVをつけても「オウム真理教」の特集で
つまらないから、布団に入りながら出来ることを
満喫していた。
「うつぶせになって台本を書く」は、割と有意義な過ごし方だった。
11月公演・・・。
観にいけるかなぁ・・・。
順調だったら、生後7ヶ月位・・・。

ちなみに書いてる台本は、O・ヘンリ−原作「最後の一葉」
大筋は変えないけど、原作に登場しない人物つくったりして
結構楽しく書いていた。

旦那は瑞穂に「冷凍母乳パック」を持っていってくれた。
いつ飲めるようになるかは、わからないけど・・・。

搾乳してて気づいたことがある。
母乳って「白い」んだと思ってたんだけど、違うのね。
黄色いプリンみたいな色なんだよ。
といっても初乳のみで、徐々に(2週間位かけて)
白くなっていったんだけど。
それともう一つ、某メーカーのCMコピーの意味がわかったの。
「ママの味」なんだよ。
あの飴の味。
マジで。
よく似ています。
女の子でこれから赤ちゃん産む方、なめてみて。
ほんとだよ。

それと、書き損ねた事一つ。
体重なんだけど、産んだ翌日は全然変わってなくて
ショックだったんだけど、その翌日には3キロ減って、
退院する時には4キロ減ってたの。
水分・・・むくみってこわいね、すごいね、
と思ったのでした。

なにはともあれ、なんとか搾乳も上手に出来るようになった。
台本の合間に、友人に電話したりする。
GWのまっただ中な割には、みんな家にいて、
相手をしてくれた。
医療センターのすごさとかを、子供のいる人は語ってくれる。
かなり、有名な病院らしい。
子供のいない人には、まったく関係ない病院だから、
知らなかった私。
産婦人科の近くで良かったなぁ・・・。
もし、別な産院で、処置が遅れていれば・・・・。
今もう、ちびチャンはいなかったかもしれないのだ。
少なくとも、何年か前であれば、もういない状態だと
いうのだから、かなり辛い状況なのは間違いなかった。

負けない。
もしかしたら・・・って考える自分に負けるもんか。
信じる自分を信じよう・・・。
今、チビちゃんを失ったら、多分終わりだ。
旦那とも、今の生活やっていける自信はない。
多分このまま、出戻りだ。
二度とあの家に帰ることはないだろう・・・。
これは確信に近い。

またまた、小学校からのくされ友人の一人が来てくれた。
気が紛れる。友人って、こんなとき助かる・・・。
大丈夫。
大丈夫。
自分に言い聞かせる私だった。


              続く                          






第百十話

明日、瑞穂に会いに行く。
ドキドキだ。またあの姿を見るのかと思うと辛くなる。
でも痛いのも、苦しいのも瑞穂だ。
私も頑張らなきゃ、と搾乳に明け暮れる。

小児医療センターは、赤ちゃんに一日一回、
親の面会を義務付けている。
赤ちゃんの為でもあり、親の為でもあるんだろう。
旦那はせっせと通っていた。
明日は一緒に行こうといってくれた。
産後は大事にしないと・・・という私の親の
言葉もあったが、移動は車だから、と説き伏せた。
今日は5月5日・・・。
子供の日。明日、5日ぶりに瑞穂に会う。
なんだかもんもんとしてしまう。

TVをつけると、ちょうどアンパンマンが
始まったところだった。
オープニングの歌を聴いて、なぜだか涙が出た。


♪そうだ おそれないで みんなのために

 愛と 勇気だけが 友達さ

 何が 君の幸せ?

 何をして 喜ぶ?
 
 わからないまま 終わる

 そんなのは 嫌だ

 忘れないで 夢を

 こぼさないで 涙

 だから君は 飛ぶんだ どこまでも


・・・・・。
なぜだか、聴いて涙がでた。
この番組を一緒に観る日がくるのだろうか・・・。
そんな不安が、あったからかもしれない。
ともあれ、翌日いい天気の中、医療センターに向かう。
車で33分という早さで着きました。
さすが、連休中。すいてます。
病院に着いて、駐車場から入口まで歩きながら
旦那と話す。
どうしても口にしたかった。

「ねぇ・・・。瑞穂さぁ、こんな事になったのって、
  やっぱり精神的な事あるんじゃないかなぁ。」
「・・・。」
「どう思う?」
「・・・。それさぁ、親父が昨日母さんに言ってたから、
  言うなよ。」
「何?」
「だから、お前がみつ子をいじめてたからこうなった
  んだ!って。」
「で、お義母さんなんだって?」
「黙ってた。」

へぇ・・・。
お義父さん、あれが「いじめ」だってわかってて、
今まで何もいわなかったんだ。
ふぅん。
そう。
なんか変な気分だった。
落ちこんだであろうお義母さん。
でも一番ショックなのは産んだ私だ。
へぇ・・・お義父さんがねぇ・・・。
ふぅん・・・。

病室に入り、びっくり。
瑞穂、なんと起きていました。
眠り薬はもう使ってないとか。
夕べから「母乳」を使ってるとか。
ほんと?
ねぇ、信じていい?
よくなってるってことだよね?
肺は開いたの?
もう峠は越したの?

でも・・・あいかわらずICU(集中治療室)
だね・・・。先生も何も言ってくれない。
後は体力回復のみですよ、なんていわれたら、
うれしいんだけど・・・。
そう都合よくは、いかないんだなぁ・・・。
でも赤ランプは点灯してない。
今日、私のいた時間内では、一回もつかなかったし、
まわらなかった。
今日初めて、担当の看護婦さんに会った。
病院のママっていう感じで、担当するらしい。
かわいらしい、斎藤さんという女性だ。
ちなみに担当の先生は、永田先生という。

集中治療室を出られるのは、いつの日か・・・。
いやいや、あせらず待とう。
うん、あせって何もかも無駄になったら嫌だから・・・。

でも今日の面会は、うれしかった。
たとえ、むくみで「大滝秀治さん」のような
顔になっていようと、薬が少しでも
減っていることは、とてつもなくうれしかった。


               
続く

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